この記事を書いた人
【ペンネーム】kiipooh
【プロフィール】以前、私は法務の仕事をしていた関係で、友人から『父親が高額の借金を残して死んだから困っている、自己破産するしかない』との相談を受けたことがあります。可哀そうだと思って色々調べたら、相続放棄という手段のあることを知りました。友人も助かったと喜んでいました。
民法では、被相続人が亡くなると、その時点で全ての遺産が相続人に継承されるとしています。
従って、相続人の意思には関わらず、被相続人が死亡すれば全ての遺産が自動的に相続人の所有となります。
ただ、遺産とはいっても不動産や預金、株式などの財産だけとは限らず、貸金業者などからの借金もあります。
つまり、子供は父親の財産を相続できることもあれば、父親の借金を背負うこともあるということです。
ただし、相続を拒否することで、父親の借金から逃れられます。
相続は自由意志
民法では、被相続人の遺産は全て相続人に継承されるとしていますが、同時に遺産を相続するかどうかは相続人の自由意志で決められるとしています。
つまり、遺産の相続をしたくなければ、相続をする必要がありません。
相続を拒否することを「相続放棄」と言います。
プラスの財産だけの相続は不可
例えば、あなたの父親が亡くなった時に銀行預金が1,000万円で、借金が500万円であれば、借金を背負っても遺産を相続する価値があります。
ところが逆に、借金が1,000万円で、銀行預金が500万円であれば、父親の借金が重くのしかかります。
そんな場合に、相続放棄をすれば、父親の借金から逃れられます
なお、預金の500万円だけを相続して、1,000万円の借金は相続放棄をするということはできません。
遺産の全てを相続するか、全てを放棄するしかありません。
厳密には、「限定承認」と言って、財産から借金を差し引いた分だけ相続するという方法もありますが、滅多に利用されません。
相続放棄とは
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになります。
例えば、あなたの父親が被相続人の場合、あなたは必ず法定相続人になります。
そこで、あなたが相続放棄をすると、遺産相続上ではあなたは相続人ではなかったと見做されて、遺産相続が行われます。
そして、あなたの相続分は他の法定相続人に相続されます。
なお、遺産相続には「代襲相続」と言って、相続人が死亡していた場合はその子供に遺産が継承される制度があります。
ただし、相続放棄は元から相続人ではなかったことになるため、代襲相続は行われません。
従って、仮にあなたに子供がいたとしても、あなたが背負うことになる父親の借金をあなたの子供が相続することはありません。
ただし、あなたが相続するはずだった借金は他の法的相続人に回るため、事前の打ち合わせが必要です。
仮に、法的相続人が複数いる場合、全員が父親の借金から逃れる方法は、全員が相続放棄をすることです。
なお、一度相続放棄が決定すると、どんな理由があったとしても撤回することはできません。
相続放棄の手段
相続放棄をする場合は単に他の相続人に口頭で伝えたり、書面にして債権者に渡したりしただけでは法的な効力がありません。
当然、債権者からの返済の要求を阻止することもできません。
相続放棄をする場合は、家庭裁判所に申請し、認められた時点で初めて相続放棄が成立します。
なお、相続放棄は「被相続人の死亡を知った日」から3ケ月以内に裁判所に申し立てなければなりません。
3ヶ月が過ぎてから、あなたが『期限のあることは知らなかった』、『借金のことは聞いていなかった』などと言い訳をしても、裁判所は認めません。
ただ、遺産の内容が複雑で、財産のことや借金の事実を調べるのに時間が必要な場合は、家庭裁判所に申請すると3ヶ月間の延長を認めてもらえることもあります。
連帯保証人
相続放棄で注意しなければならないのが連帯保証人です。
連帯保証人というのは、連帯保証人と債権者の間で交わされた「保証契約」に基づく契約です。
従って、金銭の貸借契約とは別途のものです。
仮に、父親が第三者の借金に対する連帯保証人になっていた場合、あなたが相続放棄をすれば連帯保証人としての保証契約を相続する必要が無くなります。
しかし、あなたが父親の借金の連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をしたからといって借金の返済義務がなくなるわけではありません。
つまり、父親の借金は相続放棄によって相続を拒否できますが、自分が結んだ保証契約は父親の生死とは関係ありません。
従って、保証契約は父親の死後も継続され、父親が返済できなかった借金は父親に代わって即時に返済する必要があります。
単純承認
相続放棄でもう一つ注意することが、父親の財産には決して手を付けないことです。
よくありがちなのが、債権者がしつこく返済を要求してくるため、とりあえず今月分の返済だけ父親の預金から支払うことです。
相続財産に少しでも手を付けると「処分行為」と言って、相続を「単純承認(すべての遺産の相続)」したものと見做されます。
そうなると、相続放棄をすることができなくなります。
ただし、父親の葬式にかかった費用を出した場合は、処分行為にはなりません。
相続放棄後も受取れる父親の財産
基本的に、相続放棄をすると、父親の財産は一切に貰えなくなります。
ただし、例外があり、その代表的なものが、「遺族年金」、「死亡退職金」、「生命保険金」です。
遺族年金
遺族年金とは父親が加入していた国民年金や厚生年金において、父親が亡くなった時に、残された遺族に対して支給される年金のことです。
遺族基礎年金と遺族厚生年金がありますが、受給できる人に条件があります。
死亡退職金
死亡退職金は会社から遺族へ支払われる従業員の死亡による退職金のことです。
基本的に、遺族独自の財産とされているため、相続財産には含まれず、相続放棄をしたとしても受取ることができます。
生命保険金
死亡退職金同様、受取人である相続人が相続放棄をしても受領できます。